当研究会では毎年10月に視察会を実施している。今年度は10月18日(金)〜19日(土)会員10名の参加者を得て、世界有数の金属加工産地、新潟県(燕三条)を視察した。
【18日(金)】
ぐずついた空模様の東京をあとに、一行は上越新幹線で目的地燕三条駅へと向かった。途中から空は晴れ上がり、到着した頃には気持ちの良い秋晴れだった。早速マイクロバスに乗り込み、第一の視察先であるマルナオ株式会社ファクトリーへ。森林と水田に囲まれた緑あふれる風景の中にある白と黒のモダンな建物。ドアのノブが箸の形をしている。同社は1939年から続く木材加工の老舗。もともと大工道具だった墨坪車を製造されていた。2003年からその木製技術を生かし、箸の製造をされている。歴史や製品説明を聞きながら、箸の原型(木材)から八角形、六角形他、様々なサイズ、重さ、形に制作されていく作業場を視察した。職人の手作り作業を目の当たりにし、ものづくりの奥深さを感じた。工場視察後は、併設されたショップにて、箸や木製スプーンなどオリジナル製品を見た。

第二の視察先は、株式会社諏訪田製作所ファクトリー。同社は、創業以来90余年、「刃と刃を合わせて切る」ニッパー型刃物の製造に特化し、これまで様々なつめ切り等を製造している。ファクトリー入り口では、鉄くずでできたオブジェが出迎えてくれた。

工場に入ると、ドシン、ドシンと鈍い音が聞こえた。硬い刃のつめ切りのベースを作る鍛造(たんぞう)という工程だ。その後研磨研削、いくつもの工程を経て、刃がぴったりと合うように仕上げる「合刃(あいば)調整」へ。これまでたくさんの職人でリレーしてきた製品を仕上げる所は責任重大で、非常に神経を使うとのことであった。様々な職人技を前に、質問も飛び交った。
工場横のギャラリーやショップはスタイリッシュで、美術館のような雰囲気も味わえた。 実際つめ切りを試してみるとその切れ味は驚くほどであった。
第三の視察先は、庖丁工房タダフサ。1948年創業以来すべての工程を職人の手作業で行っている。一つ一つの工程を丁寧に説明して頂きながら視察した。工場2階のギャラリーには、「工房の心得」が掲げられており、ものづくりへの誇りと魂が伝わった。
視察後、庖丁の切れ味を試した。きゅうり、トマトの切れ味はさることながら、フランスパンもパンくずを出さずに切れたことには驚いた。

初日最後、第四の視察先は、和釘一筋に歩んでこられた「火造りのうちやま」。全国でも数少ない、和釘・古建築金物を専門に手掛け、伊勢神宮をはじめ全国各地の寺社仏閣、城、茶室、仏像その他文化財の修理復元等に使用されている。内山氏の丁寧な説明を聞きながら、作業場面を視察した。熱した釘の元を金槌でたたき、頭部や釘の先、全体の形状を作る。1センチほどの小さな和釘も作られ手に取らせて頂いた。一本一本形状の異なる釘を作られる技に驚嘆し感動した。
内山氏のほかに、一人若い女性が作業をされていた。聞くと修行を始めて10カ月とのこと。黙々と仕事に取り組む若い姿が頼もしかった。

【19日(土)】
二日目は、燕三条地場産業振興センターにて、包丁研ぎ体験をした。研いだあとは新聞紙を使って切れ味を確かめた。皆で共通の作業をしながら和やかな交流にもなった。同センターでは燕三条の様々な製品が展示即売されている。視察した会社の製品のほか、物産館を見て回った。
一行は燕三条をあとに、新潟市に向かった。最後の視察は今代司(いまよつかさ)酒造の酒蔵見学。創業1767年という伝統をもつ歴史ある蔵の作業現場に入って、酒造りに関する説明を受けた。温度調節機能のついているサーマルタンクのほか、貴重な職人が作った巨大な木桶は圧巻だった。視察後は隣接する母屋に案内された。天井の高い歴史あるしつらえの部屋で、酒の升をイメージした会席弁当を頂いた。
こうして、二日間の視察を終え、予定通り東京駅にて解散となった。ものづくり現場の貴重な視察ができ、また会員間の絆も深まる有意義な視察会であった。
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